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ひみつの地図
 
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ひみつの地図

 押しいれの掃除をしてみた。無謀な挑戦かもしれないが、取りあえず掃除しようとしてみた。押しいれは、その名のごとくイロイロな物が押し入れられ、すでに巣窟と化している。もう何が入っているのか分からない状態だ。そんな状況を打開してみようと、長い間眠らせていた整理整頓の精神を復活させてみたのだ。私みたいな人間が、整理整頓という言葉を口にすると、ろくなコトがないのだけど。

 押しいれはスゴイ。何がスゴイって、埃もスゴイし、匂いもスゴイし、がらくたもスゴイ。なぜ、こんなに必要のない物がたくさん入っているのだろうか。

 ストーブがあった。丸くて、直接灯油を入れるタイプだ。ヤカンを置く台も付いている。とても懐かしいストーブである。最近、姿を見てないなとは思ってはいた。まさか、こんなトコロで眠っていたとは、気が付かなかった。ふと、灯油の目盛りに目をやると、まだ少し入っている。押しいれへ仕舞うときに、灯油を抜くのを忘れていたようだ。私は見なかったことにして、ストーブのコトは忘れることにした。

 古時計もある。ネジ式のちょっと大きめな時計だ。上部が丸くなっていて、そこが時計になっている。下部は長方形で、そこに振り子がある。試しに動かしてみようと思ったが、ネジがなかったので、あきらめた。

 他にも、さび付いた秤や、つぶれたランドセル、さらには正体不明の薬品などが次々と発見されてゆく。いったい何年前から、放置されていたのだろうか。そのさらに奥底からは、ファミコンや電子レンジの説明書も出てきた。奥にゆけば時代が遡ってゆくワケでもないようだ。不思議な押しいれである。

 そんなふうに、色んながらくたを取り出していたら、ひとつの空き缶を見つけた。四角い、蓋の付いた空き缶だ。振ってみると、カラカラと音がする。何が入っているのだろうか。私はドキドキしながら、空き缶を開けてみる。すると、そこには牛乳瓶の蓋が数枚と、黄ばんだ紙が一枚折りたたまれていた。

 牛乳瓶の蓋は懐かしい。子供の頃に、これで遊んだ覚えがある。遊び方はメンコと同じ要領で、呼び名はペッチン。強い蓋や、希少価値のある蓋をもっていると、威張れたものだ。確か、雪印牛乳よりは明治牛乳の方が強かった。地場産業チチヤス牛乳は弱かった記憶がある。コーヒー牛乳は最弱だった。他にも、あるメーカーの、どの牛乳の蓋が強いとか。誰それが持っている蓋は最強だとか。そんな話題が飛び交っていた。蓋にロウを塗って強くしたり、火であぶって強くしたりもしたものだ。

 気になるのは、もう一枚の紙である。黄ばんだ紙は、時間の経過を感じさせる。油がにじんだようなシミが所々に現れ、紙をパリパリにしている。ちょっと乱暴に扱えば破れてしまいそうなほど、もろい。

 私は紙を開いてみる。特に折り目がもろくなっていて、今にも千切れそうだ。それでも、慎重に開いてゆくと、「地図」という字が現れた。ひどく幼稚な字体だ。なんの地図であるかに関しては、一切触れられていない。ただ、私が通っていた小学校と、当時の友人たちの家が粗雑に書き込まれているだけである。

 いや、それだけではなかった。地図の真ん中には川の絵が書き記されている。そして、その下流付近に赤い印がある。どうやら、その印の場所に何かがあるようだ。状況から推測するに、そこには最強のペッチンが眠っているに決まっている。これは宝の地図なのだ。でも、川の下流と言っても、その範囲は結構広い。この地図からは、それ以上の情報を得ることは出来ない。これでは、宝の在処を探し出すのは至難の業であろう。もうちょっとマシな地図を作れなかったのだろうか。

 私は近所の詳細地図を取り出し、該当する場所を探してみることにした。まず、どの川であるのかについては、なんとか類推することができた。でも、やはり下流付近の範囲は広い。せめて、川に橋の絵を描いていてくれれば、目印になったのだが、そんな気の利いたモノは一切無い。私は、他にヒントは無いかと、宝の地図の隅々まで目を通す。でも、それらしきモノは、どこにも見つからなかった。この地図は、ちと酷すぎる。地図を作った奴の顔が見てみたい。と毒づくのは、天を仰いで唾するようなものだろうか。

 ふと気が付くと、すでに日は暮れていた。いつの間にか気温が下がっていて、私の体も冷たくなっている。私は地図のことは諦めて、風呂に入ることにした。湯船はよい。冷え切った体をじんわりと暖めてくれる。ついでに、記憶の彼方に追いやった、押しいれのコトも思い出させてくれる。きっと、押しいれの前には、ストーブや古時計などが放置されているはずだ。他にも、ランドセルや、秤、怪しげな薬などが鎮座しているだろう。彼らが再び片づけられるのは、いつの日になるのだろうか。やはり、ろくなコトがない。

2003年04月14日

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