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タケノコの山
Copyright 2003-2019 GOKANBASHI WATARU. タケノコの山 広島県広島市西部在住の北林さん(仮名)は、早朝から車をとばしていた。季節は4月も終わろうとしているが、まだまだ明け方は冷え込む。最近は年を取ってきたせいもあるのか、寒さが腰に響く。しかし、今日は朝早くないとダメなのだ。昨日の晩に降っていた雨は早くにやみ、今朝は絶好のタケノコ日和なのである。 北林さんは、毎年この時期になると親戚のタケノコ山に出向いて、新鮮なタケノコを掘っている。今年も、すでに3回ほど掘りに行った。このタケノコは、柔らかくて味があり、ご近所に配ると、とっても喜んでもらえる。それを今日は、朝掘りの最上のモノを採って来ようというのだ。タケノコは、なんと言っても朝掘りのモノがイチバン旨い。日が高くなる前に掘らなければ。北林さんの心ははやる。 広島県広島市北部在住の従町さん(仮名)は孫と一緒に裏山へ歩いていた。今日は、この末孫にタケノコ掘りを堪能させてやろうと思っている。と言っても、孫はまだ幼く、タケノコを掘るのは無理であろう。今日は老体にむち打ち、孫に良いところを見せてやろう。タケノコ掘りの楽しさと、タケノコの美味しさを教えてやろう。従町さんはそう考えていた。 期待通り、孫は喜んでくれた。タケノコを見つけると、おじいちゃんが掘り返してくれる。それが楽しいらしい。しかも、コツを得たのか、次から次へとタケノコを発見してゆく。従町さんはフラフラになりながらも、次から次へとタケノコを掘り返してゆく。気が付けば、日はすっかり高くなり、気温も高くなってきた。でも、孫は飽きずにタケノコを探し回っている。もう、30本以上は採っているはずだ。勘弁して欲しい。 やっと、孫がタケノコに飽きてきた頃、その収穫数は50本を越えていた。従町さんの腰はがたがたである。それにこんなに大量のタケノコをどうしてくれよう。娘夫婦に持ち帰らせても、タケノコはまだ山のように残っている。従町さんはしばらく悩んでいたが、おもむろにタケノコを袋へ詰めると、自分の会社へ出かけていった。事務員さんに全部配ってしまおうと考えているようだ。 広島県佐伯郡在住の外山さん(仮名)の趣味はタケノコ掘りである。2、3日毎に自分のタケノコ山へ赴き、ツヤの良い上等なタケノコを掘り返している。ただ、彼はタケノコがあまり好きではなかった。でも、タケノコ掘りは楽しくて仕方がない。外山さんは、掘ったタケノコを車のトランクに放り込んで、会う人会う人に配っている。今日は雨後の竹の子現象のおかげで、沢山のタケノコが採れている。気合いを入れて配らなければ。と外山さんは意気込む。 最近は、会う人会う人が外山さんを警戒している。美味しいタケノコも、こうも頻繁に食べていると、食傷してしまう。当然のことである。外山さんの姿を見かけると、用事を思い出す人とか。挨拶もそこそこに、この前のタケノコまだ残っているんだよ、と防衛線を張る人とか。正直にタケノコはもう要らないよと宣言する人とか。特に、その日はタケノコの売れ行きが悪かった。 ちょうどソコへ、古くからの友人と出会った。この友人は、お人好しで、頼み事を断れないタチである。ましてや、贈り物を拒否するコトなんてあり得ない。外山さんは、これ幸いと、トランクから取り出したタケノコを全部あげてしまった。友人は、申し訳なさそうに、感謝の意を述べている。外山さんは内心恐縮しながらも、恩着せがましく、そのタケノコの旨さをトクトクと説いていた。自分は嫌いなくせに。 ここでひとつ問題がある。北林さんは我が家のご近所さんであり、従町さんは母の上司であり、外山さんは父の友人であるのだ。さて、このタケノコの山、どうしましょう。 2003年05月5日 |