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根無し草のように
 
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根無し草のように

 たんぽぽの綿毛が横断歩道を渡っていた。信号待ちの車の前を、ゆったりと、ふわふわ飛んでいる。風に引き戻されたり、失速しそうになったり危なっかしい。果たして、信号が変わる前に横断歩道を渡りきることが出来るのだろうか。

 私は目の前の信号を気にしつつも、たんぽぽの行方を横目で追ってゆく。たんぽぽの行程は遅々として進まない。横断歩道の半ばへ達したところで、無惨にもまた風に押し戻されている。もう絶望的だ。歩行者信号が点滅をはじめる。横断歩道を渡り切るには、強力な追い風が必要だ。でもそんな風が吹いたら、たんぽぽは横断歩道を渡るどころか、どこかへ飛んでいってしまうだろう。

 しかし、たんぽぽはそんなコトなど気にもせず、また進み始めた。のんびりとした姿だ。そして、たんぽぽが再び横断歩道の真ん中まで来たとき、信号が変わる。車が発進し、たんぽぽは煽られて空高く舞い上がっていった。

 後日、気になって調べてみた。やはり、たんぽぽは春の花である。少々のずれはあるが、4月頃に開花するそうだ。通常、2、3日間花を咲かせて、そのあと綿毛を飛ばす。いくら何でも、12月の寒空まで綿毛が残っているはずがない。しかし、それは在来種のニホンタンポポのお話。物の本によると、日本にはもう一つのたんぽぽがあるらしい。外来種のセイヨウタンポポだ。

 このセイヨウタンポポはニホンタンポポに比べて強く、荒れ地などの痩せた土地にも自生出来るとのこと。しかも、ニホンタンポポが昆虫を利用した花粉の受け渡しで受粉するのに対し、セイヨウタンポポは受粉することなしに種を残すことが出来る。つまり、昆虫がいない冬でも花を咲かせることがあるのだ。なるほどね。

 昔むかし、外国のある港での光景。日本へ運ばれようとしている荷物に、一つの綿毛が付着していた。たんぽぽの種だ。その荷物はたんぽぽをくっつけたまま船へと運ばれ、長い航海の旅に出る。途中、嵐に遭うこともあっただろう。酷い揺れの中、たんぽぽは荷物から離れ、船倉を舞っていたかもしれない。船上ではクルー達が必死に嵐と格闘している中、悠然と漂っていたのだろう。また、嵐のない日は部屋の片隅に腰を落ち着けていたかもしれない。自分がどこへたどり着くかも知らずに、ゆっくりと眠っている。その姿はまるで根無し草のようだ。

 日本へ到着し、たんぽぽは何かの弾みで地面へと降り立つ。たんぽぽは持ち前の力強さを持って、初めての土地に根を張ってゆく。やっと落ち着ける場所を見つけたのだ。他者の花粉を必要としない単為生殖の性質も幸いし、セイヨウタンポポは日本の土地に定着してゆく。

 数十年後。たんぽぽは、相変わらずふわふわと漂っている。日本へやってきた頃と何も変わらない。そして真冬の寒中、私の目の前で横断歩道を渡ってみせる。あのたんぽぽは、今度はどこへ行こうとしていたのだろう。

初筆:2001年12月31日
加筆:2003年12月9日

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