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こだわりカレー
 
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こだわりカレー

 世の中には、カレーが大好きで仕方がないという人は多い。毎日のようにカレーを食べたり、カレー好きが高じてカレー専門店を開いたり、美味しいカレーを求めて遙か異国の地へと旅だってしまう人がいる。私もカレーは好きだけど、カレーなしでは生きてゆけないほどのカレー依存症でもない。たまにカレーが食べたくて仕方がなくなることはあるけど、それは一時的なカレー依存症に過ぎない。今のところ、カレーとはクールな関係を保っているつもりだ。

 しかし、最初に挙げたような、慢性的なカレー依存症に罹ってしまった人は、その禁断症状を抑えるために、常にカレーと接していなければならない。常備薬代わりに、カレー味のスナック菓子を持ち歩いている人もいる。でも、それは代用品にしか過ぎず、却ってカレーへの思いを募らせてしまうこともあるようだ。

 そんなカレー好きな人たちは、自分が特殊な人間であるという意識が薄い。彼らは、世の中の人は皆、自分と同じようにカレーを欲しているのだと思いこむふしがある。そして、他人にお勧めのカレー店や、美味しいカレーレシピを教えて、自慢をしようとする。私としてはカレーが嫌いではないので、ありがたく言葉をちょうだいするけど、その情熱に思わず身を引き気味にしてしまうことが多い。

 先日もそうだった。カレー好きの友人が、美味しいカレー屋さんへ連れて行ってくれたのだ。そのカレー屋さんは隠れ家的で、知る人ぞ知ると言った雰囲気を醸し出している。友人と店の主人は、顔見知りのようで、二人がカレー談義を始めると、どうにも止まらない。どこそこのスパイスがどうのこうのやら、米の種類が云々かんぬんやら、私には到底理解できそうにもない会話を繰り広げている。

 それでも、やっと談義が終わり、カレーを頂くことになった。友人によると、この店のお勧めは「特製こだわりカレー」らしい。私は生まれてこの方、「こだわりカレー」なるものを食べたことがない。ビーフカレーやチキンカレー、はたまたボンカレーなどと言った物は何度か食べたことがあるけど、「こだわりカレー」は初めてだ。「こだわり」という言葉に、ちょっと身構えてしまう。

 最近は、食べ物に対して「こだわり」という言葉を使う風潮が高くなってきている。この「こだわり」という言葉を自分に対して、もしくは自分の作った料理に対して使用すると、卑下自慢の意味が生まれてくる。

 そう言った卑下自慢の言葉からは、「他の人には理解できないかもしれないけど、このカレーのここが凄いんだよ。でも、そんなコトを熱く語ると変な人だと思われちゃうかもしれないから、『こだわり』という言葉を使って、ちょっと卑下た表現にしておこう」という感情が読み取れる。その感情には、ちょっとした照れくささが混じっていて、親しみを感じる。そんなニュアンスをこの一言で表せるのは、非常に便利だと思う。

 しかし、最近は「こだわり」に内包される「卑下自慢」の意味合いを理解せずに、やたらに「こだわり」が乱用されている。酷い場合、「こだわり」を他人に対して使用している人もいる。他人に対して「こだわり」という言葉を使うと、それはすでに卑下自慢ではなく、その人を卑しめているだけに過ぎない。

 また、料理人に限らず、上質な技術を持った職人の、職人気質な言動が素人には理解できず、闇雲に「こだわり」呼ばわりされてきた歴史も想像できる。やがて、そのような言動が理解されてきたり、尊敬の対象になるに従って、今度は逆に「こだわり」という言葉に、本来あるはずのないプラスのイメージが付加されてきたのかもしれない。

 もちろん、このカレー店の「特製こだわりカレー」は、店主自らが名付けた物なので、卑下自慢の意味が含まれているのだと思う。しかし、プロの料理人なら、卑下自慢などせずに、真っ向から勝負して欲しいような気もする。

 そんなことを考えていると、私の元へ「特製こだわりカレー」が出てきた。早速食べてみると、どこが「こだわり」なのかは不明だけど、美味しいカレーだった。そうして、カレーを二三口ほど食べると、友人がその感想を聞いてきた。私なんかに感想を求められても困るのだけど、とにかく何かを喋って欲しいようだ。仕方がないので、「さすが、こだわりカレーだね」と言うと、友人はすこし不機嫌な顔をして、それ以上何も言わなくなった。

2004年04月17日

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