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キッスはソース味
 
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キッスはソース味

 待ち合わせという行為は、大変難しい。待ち合わせの約束をした相手が、滞りなく時間を守り、所定の位置に現れれば問題はない。現れないと、いささか問題がある。それが更に、何分待っても現れなかったり、携帯に電話をかけても繋がらなかったりすると、大きな問題になる。「人を待たせやがって、コノヤロウ。何様だと思ってるんだ」的な鬱憤が、時計の秒針が動くたびに積算されてゆくのである。

 でも、それは難しくない。鬱憤を溜めるコトは、誰にでも出来る。最初に難しいと述べたのは、溜まった鬱憤を晴らす方策についてである。通常であれば、遅刻者に対して文句を言い、場合によってはペナルティーを科し、その鬱憤を晴らすのが上策とされている。しかし、小心者にはそんな真似は出来ない。遅れてきた相手に、愛想笑いを返すのがせいぜいである。

 例えば、遅刻上手な人は、遅刻の言い訳をしない。ただ単に、「ごめんごめん」と言いながら愛想笑いを浮かべるだけ。さんざん待たされた人が小心者だと、ついうっかりと愛想笑いを返してしまう。そうなると、もうお仕舞い。遅刻の件はそれで終わり。何もなかったかのように、話は別の方向へ進んでいってしまう。そこには鬱憤を晴らす隙など微塵もない。

 だから、小心者は鬱憤を溜めてはいけないのである。遅刻待ちの時間を有効に活用し、ストレスを溜めないように心がける必要がある。それも更に難しい問題である。

 しかし、小心者を長年やっていると、遅刻に対する免疫ができてくる。他人に待たされても、ほとんど気にならないのだ。そして、もっと境地に近づくと、その状況を楽しんでみたりも出来るようになる。例えば、マンウォッチング。待ち時間を利用して、周囲の人たちを観察してみると、案外面白い。時間はあっという間に過ぎ去ってゆく。

 私の隣のベンチに座ってきたカップル。さっと眺めた限りでは、大学生ぐらいであろう。いや、ちょっと初々しさが残っているので、高校生かもしれない。二人仲良く、たこ焼きを食べようとしているようだ。美味しそうな匂いがぷーんと漂ってくる。腹の減っている私には、ちと辛い状況である。

 でも、彼らにはそんなコトは関係ない。熱々のたこ焼きを食べることに必死である。彼女がたこ焼きをひとつ摘み、彼の口の中へ入れてあげる。彼はハフハフ言いながら、たこ焼きを食べる。とても辛そうだ。その目には涙が浮かんでいるようにも見える。彼は猫舌なのではないだろうか。でも、彼女はそんなコトには一切気が付いていないようだ。間、髪をいれず、次のたこ焼きを彼の口元に運ぼうとしている。容赦がない。

 彼氏の敗因は、飲み物を買っていなかったことであろう。そして、彼女が全然たこ焼きを食べようとしないのも大きい。ダイエットでもしているのだろうか。でも、彼は健気にもたこ焼きを食べ続ける。きっと、上顎の裏はヤケドでベロンベロンのはずだ。

 やがて、たこ焼きは冷めてきて、彼も落ち着いて食べることが出来るようになってきた。すると、彼女はたこ焼きを食べ始めた。アタシ猫舌なの。と言いながら、冷めたたこ焼きを頬張っている。彼は、哀愁のこもったまなざしで、その食べる姿を眺めている。かわいそうに、彼はたこ焼きの温度計代わりだったようだ。でも、私にとっては良い時間つぶしになった。おかげで遅刻待ちも気にならない。

 彼と彼女のやりとりはまだ続く。

 今度は、彼が彼女にたこ焼きを食べさせ始めた。冷めたたこ焼きをひとつ摘んでは、彼女の口元へ運んでゆく。でも、ねらいが定まらない。それもそのはず、彼女は彼の腕にしがみついているのだ。彼女は甘えた声で、彼氏の腕に頬ずりをはじめる。ちょっとむかついてきた。こいつら、見せつけて楽しんでいるのか。

 更に今度は、彼女の口元に付いたソース。それをどうやって取るかでいちゃつき始めた。彼氏がポケットから取り出したハンカチ。ヨレヨレで埃まみれだ。いったい何時からそのポケットに収まっていたのであろうか。おそらく、一週間以上ポケットの中で眠っていたと思われる。彼女は当然拒否をする。かといって、自分のハンカチを出そうとはしない。では、何で拭けばよいのだろうか。これは誘っていると思って間違いないだろう。彼氏の口でソースを拭って欲しいのだ。ついでにキスも欲しいのだ。その証拠に、彼女は目をつぶっている。いや、私の位置からは見えないのだが、彼氏の反応を見る限り、彼女は目をつぶって待っている。

 彼は当惑する。公衆の面前。しかも隣のベンチには見知らぬ他人が座っているのである。それも、たった今、その見知らぬ他人と目があったのだ。怖じ気づかないわけがない。彼は焦る。彼女は焦らされる。これ以上眺めていると、私は単なるのぞき屋になってしまう。私は目をそらし、何にも気づかなかったフリをして、携帯をもてあそんでみた。何にも着信などないのに、伝言のチェックなどをしてみたりした。

 そうやって、ちょっと時間をおいてから隣の様子を探ってみると、二人はまだキスをしていた。きっと、彼女の口元からはソースが跡形もなく消えていることだろう。そして、もう私の目線も気にならないらしい。と言うよりも、他人の目線に気が付かないらしい。そんな二人は、どんどんエスカレートしてゆく。頼むから、よそでいちゃついてくれよ。それにしても、アイツ遅いなぁ。

 それからしばらくして、待ち合わせ相手が現れた。その友人は「ごめんごめん」と言いながら愛想笑いを浮かべる。私はつられて、愛想笑いを返してしまった。この積もり積もった鬱憤はどうやって晴らしてくれようか。ホント、待ち合わせって難しい。

初筆:2003年06月5日
加筆:2005年06月4日

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