桜尾の神社近くにあるお好み焼き屋。店舗はこぢんまりとしていて、鉄板席、テーブル席合わせて10席もない。鉄板は小さめで年季が入っている。その証拠に鉄板は平らではなく、湾曲している。
お好み焼きは、鉄板に油を引き、麺を手でほぐして鉄板に出して炒める。次に緩めの生地を引き、そこに魚粉を振りかけて先ほどの麺をのせる。そうしてソースを少し落として麺に絡める。その上にキャベツ、もやし、天かす、肉を乗せてつなぎの生地をかける。
しばらく焼いてからひっくり返す。そしてペチャンコになるまで押し焼きして、卵を鉄板に割り、黄身を軽く潰して本体を乗せる。そのまま本体を滑らして玉子を伸ばす。最後にひっくり返して、ソースを塗り、味の素、コショウ、青のりで完成。ソースは大福、そばは袋麺。
店内に入ると、小母ちゃんが一人。鉄板の前に佇んでいる。小母ちゃんは不意に訪れた客にビクリともせず、自然体で迎えてくれた。
席に着くやいなやお好み焼きの注文。肉玉うどんイカ天入り。小母ちゃんは、すぐにお好み焼きを焼き始める。私が今日最初の客みたいだったけれど、すでに鉄板は臨戦状態。アツアツに熱している。
そこから、手慣れた、長年の経験に裏打ちされた手順でお好み焼きが焼き上がっていく。それは昔ながらのスタイルで、初めての店なのに懐かしさを感じさせる。
小母ちゃんは、お好み焼きを焼きながらも、私との会話を適度に交わしてくる。時事ネタ、うちわネタ、近所の公園の桜、そんな会話を流しているうちに、お好み焼きの完成。その流れは見事に完成されている。
お好み焼きは、サクサクが食感に残るタイプ。強く押し焼きしているけれど、ベシャベシャ感はほとんど無い。強火で焼き上げているからかな。明確なアピールポイントはないけれど、安心して食べることのできるお好み焼きだった。(2009.4)
そんなことをぼんやりと考えていたら、先客のお好み焼きは焼き上がったものの、客はまだ来ない。主のいないお好み焼きは、少し寂しそうに鉄板脇に寄せられている。そんなお好み焼きを眺めていたら、私のも焼き上がった。少し平たく、無造作に青のりが振りかけられたルックス。なんとなく懐かしさも感じる。
私が食べ始めると、店の外から自転車の音が聞こえ、年配の男性が入ってきた。自分のお好み焼きを確かめると、その前に陣取り、小母ちゃんと軽く世間話をしながら、のんびりとお好み焼きを切り取って、口に運んでいる。そんな、のどかな秋のお好み焼きだった。(2013.10)