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悪酔アンコール
 
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悪酔アンコール

 アンコールってあるだろ。コンサートなんかで、もう一回演奏してくれって懇願するヤツ。あれって必ず演奏してくれるよな。あれが嫌いなんだよ。

 友人は何かのついでのようにしゃべり始めた。その手には、"JACK DANIEL'S"で琥珀色に染まったグラスが握られている。注がれたばかりの"JACK DANIEL'S"は、その温度差でグラスの中の氷を溶かしてゆく。そして溶け出した水は"JACK DANIEL'S"との浸透圧の違いで、陽炎のようにゆらゆらと"JACK DANIEL'S"に混じり合ってゆく。友人は、大のバーボン好きで、ショットバーへ行くとバーボンしか飲まない。今日も相変わらずバーボンを飲んでいる。

 それにしても、アンコールの何がイヤなのだろうか。おまけで演奏してくれるのだから、お得で良いじゃないか。しかも、必ず演奏してくれるなら、サービス精神旺盛で、なおさらありがたい。

 友人はその疑問に答える。

 アンコールがお約束ごとになっているのがイヤなんだよ。アンコールを演奏するための余力を残して、アンコールで演奏することを含めて、コンサート全体をコントロールしているトコがイヤだね。それならば、アンコールなしでトコトン最後まで演奏して欲しいよ。

 なるほど、その気持ちは分からなくもない。アンコールで演奏して貰ったからとお得な気分に浸っているが、計算され尽くされたアンコールに喜ぶなんてバカだと言いたいのだな。でも、いいじゃないか、ああいう場は、雰囲気が大切なんだし。アンコールすること自体が楽しいのかもしれないじゃないか。

 そこで、私のジーマが空になった。私はツードックスを注文する。友人はそれに呼応してグラスを一気にあおり、"MINT JULEP"をくれ、とバーテンにつげる。なんだそのバーボン、えらく軽い名前だな。と思って聞いてみると、バーボンを使ったカクテルだと教えてくれた。何にしろ、酔った頭では、その名前を覚えるのは至難の業だ。私は特に記憶力が弱いので、後日、友人にカクテルの名前を再確認したほどだ。その時、バーボンの名前は英文字で表現するように釘を刺された。カタカナで表現してはいけないそうだ。このキザな拘りには、まったく付き合いきれない。と言いつつ従いを守ってるけど。

 話は戻り、友人は反論する。

 そこが日本人の悪いトコロなんだ。欧米では、もう一度演奏を聴きたいという欲求心によって、アンコールをしている。それを日本人はお約束事項にしてしまっている。ほら、月刊誌もそうだよ。なんで2ヶ月も先の号を発売するんだ。早く出版しようとの競争意識が早回りして、空回りになっている。みっともないっちゃありゃしない。最近は、テレビ番組も5分早く始まったりするが、そのうち一時間早く始まるようになるのではないかと気が気じゃないんだよ。

 話が飛んできた。もっとも、初めから話に脈略などありもしないのだから仕方がない。こうなったら最後まで聞いてあげよう。

 友人は、"MINT JULEP"を飲み干し、新たに"OLD RIP"をストレートで注文している。この名前は聞いたことがあるな。それにしても、ちょっとペースが上がりすぎているんじゃないか。私はしんどくなってきたので、グレープフルーツジュースにしておく。

 そして、友人の舌は回転数を更にあげる。

 オマケ付きのお菓子があるだろ。大人向けのヤツ。どうみても、あれは、オマケの方に金がかかっているよな。どこがオマケなんだよ。あんなモンに踊らされるなんてバカだよ。だいいち、もう流行らないだろ。もう、あの甘ったるいチョコレートは見たくもないね。なのに、アイツは懲りずに買ってくるんだよ。

 あっ、とうとう私情がはさまってきた。いや、最初から私情だらけだったけどね。おそらく、彼女がオマケ集めに夢中になっているんだな。あのオマケは、どう考えてもお菓子の方がオマケだ。お菓子会社の策略にはめられているのは分かる。人のコレクター魂につけ込んだ美味しい商売であろう。確かに、これも実のないお得感かもしれない。それにしても、話がチンケになってきたぞ。

 友人の愚痴は続く。

 アイツ怒っているみたいなんだよ。週末に会っても、なんだかムスってしてるし。この前、オマケのことで喧嘩したのを根に持ってるみたいなんだ。まったく、オンナってやつは執念深くてヤになるね。

 それは違う。根に持っているのはコイツ自身だ。彼女は、オマケのことなんかより、どうでもいいことに目くじらを立てるコイツに苛立っているのだろう。ざまあみろ。で、アンコールの話はどうなったんだ。

 友人は私の質問を無視して、次のサケを頼む。もう一度"JACK DANIEL'S"を飲むらしい。そして、携帯を手に取り、なにやらニヤニヤしている。友人は、しばらく携帯と格闘していたが、やがて口を開け「アンコールも案外ええかもな」とのたまった。

 おおかた、彼女からコンサートのお誘いでもあったのだろう。友人は調子に乗って、"JACK DANIEL'S"をごくりと飲み干した。まだ飲むようだ。酔っぱらいのノロケ話を聞かされるのはイヤなので、私は友人を残して引き上げることにした。店を出ると、夜の町は冷え切っていて、ビルの谷間から吹き下ろしてくる風が独り身に凍みる。アンコールなんて大嫌いだ。犬も食わない。

初筆:2002年12月2日
加筆:2004年11月27日

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