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せめぎ合い
 
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せめぎ合い

 世の中には、いろいろなせめぎ合いがあります。例えば、朝の通勤ラッシュの中でのせめぎ合いであったり。お昼のメニューをAランチにするべきか、Bランチにするべきかという葛藤の中にあるせめぎ合いであったり。地域振興にいきり立つお役所と、地域を守ろうとする住民の間にせめぎ合いがあったり。夜の帳の向こうでせめぎ合いが営まれていたり。それはもう、さまざまなのです。

 そんな風に、いろんなトコロでお目にかかる、せめぎ合い。実は、私もついさっきまで、せめぎ合いを目の当たりにしておりました。今回の当事者達は、直腸と肛門。両者によるせめぎ合いの歴史は古く、記録によると、私のオムツが外された頃まで遡ることになります。

 便意を催すと、大脳は倫理感と嫌悪感を計算し、肛門に対して、トイレに入るまで出すなと命令します。肛門は命令通りに筋肉を緊張させて、糞便を押し戻そうとします。逆に、自律神経は生理的な欲求により、直腸に対して、今すぐ排便せよと指令を下します。全く逆の命令です。そこには必然的に、熾烈なせめぎ合いが発生することになります。

 昔は、直腸が圧倒的な強さを誇ってました。数限りない連勝記録を持っております。最初は、幼児の頃の、絨毯にこんもり紛争。これは直腸の圧勝でした。肛門は抗うことさえ出来なかったようです。次に保育園の頃の、お遊戯部屋が臭いぞ抗争。肛門もそれなりに頑張ったのですが、敢えなく撃沈してしまいました。さらには、小学校1年の頃の、夜中に一人でトイレに行けなかった内争。布団の中で孤独に戦っていましたが、いずれは敗れ去る運命でした。そして、もっとも大きな戦いは、小学校4年生の頃の、後少しで家だったのに闘争。破れたときは、とても悲しかった思い出があります。どれも歴史に残る有名な戦いばかり。直腸はそれらの戦いでことごとく勝利し、歴史に栄光をきざんできました。

 直腸の強さは、その戦略にあります。反射の謀略により、内肛門括約筋を無力化するコトに成功したのです。糞便がS状結腸を通過して直腸に進入してくると、直腸は自律神経の力を借りて、排便反射を促します。すると、こともあろうに内肛門括約筋が弛緩してしまうのです。こうなれば、もうこっちのもの。糞便はたやすく直腸と肛門の国境まで攻め入ることが出来ちゃいます。

 肛門は、たまったモノではありません。ここまで攻め入られると、残す砦は、外肛門括約筋のみ。幸い、外肛門括約筋は排便反射の影響を受けません。しかし、外肛門括約筋を突破されると、もうそこはパンツ。まさに、前門の虎コウモンの狼状態なのです。

 肛門は孤立奮闘でがんばります。自らの筋肉を最大限まで緊張させ、敵の侵攻を食い止めます。時には、局地戦で優勢に戦い、波が引くかのごとく、敵が退却することもあります。でも、敵はそれぐらいで勝利を諦めるような輩ではありません。奴らが、さらなる軍勢を伴って、次なる波状攻撃を仕掛けてくるのは明白です。それまでに、安泰な場所を確保できるかどうかが勝利の鍵を握っているのです。トイレはどこだ。

 近頃は、肛門も体力と戦略眼を備えてきたのか、滅多なことでは敗れることがありません。かつての常勝の将、直腸は見る影もありません。連戦連敗の敗軍の将に落ちぶれてしまいました。肛門の成長に対して、何らかの策を講じていれば、こんなコトにはならなかったでしょう。おごれる人も久しからずなのです。

 しかしながら、たけき者もついには滅びぬとも申します。肛門もやがては衰退し、また直腸の栄華がよみがえるかもしれません。そうやって、せめぎ合いの歴史は繰り返してゆくのです。この戦いが終結するのは、再びオムツのお世話になるときなのかもしれません。

2003年02月22日

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